かざうさん 親せきは皆そうよんでました。
挿絵画家、柳柊二の本名は柳橋風有草〈やなぎばし かざうぐさ〉、なんだか文芸的な凄い名前ですが、それもそのはず、名付けた父親が詩人の柳橋好雄〈やなぎばし よしお〉または炊香〈すいこう〉。さすがに文人だけあってオリジナリティー溢れる凝った命名です。ちなみに柳柊二の兄が“月詩〈つきし〉”皆が“つきっさん”とよんでいたこの人は、書家で橋本月詩、東宝で時代劇などの題字を手掛けていました。その妹、柊二の姉にあたるのが“はーさん”こと“春〈はる〉”。この方は命名が炊香ではなく、千家元麿〈せんげもとまろ〉だと伝わっています。そして三男坊、柊二の弟が“史〈ふひと〉”といいまして、父は“ふうたん”とよんでました。この人は物書きで出版編集者も長く続けていました。
実家にこんな本があります。

『柳橋炊香 遺稿集』
これは史さんが平成21年(2009年)に刊行した私家版の本で、柳柊二が持っていた炊香の遺稿をまとめると同時に、先祖の事や郷土のこと、古い写真を交えたエピソードなどが記された、我が家にとって家宝となるべく資料本です。表紙のスケッチこそ柳柊二の手によるもので、顔はなんと炊香のデスマスク。このスケッチを描くようすが本の中に描かれているので、引用して転載してみますと…
(中略)
この絵で記憶にあるのは、「ご臨終です」との声と同時に、まるで吠えるように号泣した兄が、吠えながら父の死面をスケッチしだした姿である。哭いているのか、描いているのか、とにかく慟哭と同時に父の死面はスケッチブックの上に浮き上がってくる。死に水をとっている春は目に入らないかのように、死面と画面を首が上下動しつつあっという間に仕上がったのだ。 柳柊二の熱い性格が伝わってくる、力のこもった一節です。そしてサインは“Cazau”。商用のサインは多く“Shyu Yanagi”ですから、このスケッチが特別なものであることがわかります。
そして、この本をまとめた史さんは、ライフワークの達成に安堵したのか、刊行一年後にあちらの世界に旅立って行かれました。物書きで編集者という職も、史さんに与えられた天職だったのかもしれません。
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- 2017/10/11(水) 11:19:35|
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