切り絵の鑑賞2018 昨年<2017>に続きまして、芸の上での恩人であります岸本和雄さんの切り絵作品を鑑賞させていただきました。
本年の新作その一
『梅花群鶴図-若冲-』
おなじみ伊藤若冲の名画が画題となっています。
満開の梅に群がる丹頂の図。水木しげる先生の描く細密なペン画のようですが、これは切り絵です。黒い紙を刃物で切り抜いて描いた刃先の芸術です。
原題がこちら。

今回はこの色彩鮮やかな日本画を白黒二階調に置き換えて描くことにチャレンジ。昨年の鶏もすごかった
(過去ログ「美のある世界」)ですが、今回もまた大作です。作者ご本人曰く、単に原画をトレースしたのではダメで、色を抜いたら弱くなる箇所は、それなりに強調補正を加えているとのことです。なるほど、ミニカーも単なる縮小ではなく、個性を若干強調して作っていると聞いたことがあります。「忠実に再現」というのも一つのこだわりでしょうが、史料ならともかく、作品とあれば作者納得の姿に着地させることが肝要です。表現方法が違うのですから、切り絵ならではの完成度を追求するお考えに同感です。
梅に丹頂、色が浮かんで見えてきそうな細密技巧。

なめらかな筆致が素晴らしい。切り絵というと、どうも木版画みたいな荒々しいイメージを持ちますが、本作は複雑な曲線に埋め尽くされていて、絵としての重み、生物感にあふれています。
そして、黒い部分がすべて繋がっている一枚絵。鶴の爪先のこんなところまで…

ほんのわずかに草とつながっています。
若冲の印まで再現。

見事な技巧に息をのむ作品でした。
もう一作品あります。
今度は静物です。
『釣瓶縄 その一』 これ、単なる静物画と思うなかれ。先ほども述べましたが、黒い部分が繋がっている一枚絵、つまり白い部分が多いほど不安定なのです。ごらんの作品を手で持ち上げたらどうなるか?ブチブチ切れて落ちてしまうのは想像に難くありません。緊張高まる作品です。そして枠の内側にもう一筋、井桁の囲みがあります。これが画題に因みつつ(井戸の釣瓶)、作品に近代感を与えるデザイン効果もあり、そして何より…

サインをつなぐお洒落な計らい。ここだけでも見る価値があります。
そして縄の躍動感。

境界線など無いはずなのに、手前の縄が浮かんで見えます。見事な陰影使いです。
ザラザラっとした縄の質感。

輪郭の細かいぎざぎざも刃物による手仕事、ちぎった紙の繊維ではありません。
くどいようですが、黒い部分は一枚につながっています。
こちらは枠にぎりぎり接している部分。

このように、つなぎ目を気づかせないように作り込むことで、荒縄がこちらに襲いかかってくるかのような、迫力ある立体感が生まれるのです。
以上、二作品、たっぷりと堪能いたしました。
お土産にハガキを三枚いただきました。

あ、釣瓶縄の〈その二〉があります。これも凄そうです。
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テーマ:趣味と日記 - ジャンル:趣味・実用
- 2018/07/30(月) 23:35:58|
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