TIMEX AUTOMATIC 3
タイメックスの自動巻き、cal.M32 をいじっています。

上の写真は文字板側、普通ですと、この面が地板となっており、分解するには裏返して受け板を開けるという手順になりますが、本機はそういった常識さえ完全無視したオリジナル設計。この板こそが、天受けというか全部受けと申しましょうか、全ての押さえになっています。ネジを外して、そっと持ち上げれば、テンプがビヨヨ~ンと下がるので、向こうに裏返す。

と、こんな感じなんすよ。
で、残された面々は裸に晒される。

これが全てです。なのでさっきの板は、中受け、天受け、おまけに香箱の蓋の役まで兼務していたのです。
上の方に見える黄色のアームはフックアンカーあるいはピンレバーと呼ばれる脱進部品、このへんも前に控えたまんじゅう型懐中時計
(時計道楽192)と同じです。これも庶民のためのダラーウオッチの仲間でしょうかね?いずれにせよ、部品数を徹底的に減らす工夫と、途中で裏返すこと無く、針まで一気に組み立てられる一方通行設計に驚きです。
では、場所を移しまして、外装の掃除です。
一見、それほど汚れてなさそうなケース、バンドですが、古いメッシュは油断がなりません。超音波洗浄機に200mlのお湯、そこへシチズンから発売されているバンド洗浄剤を溶かしまして、部品を浸ける。

上の写真では、それほど汚れてないように見えますね?
しかしご覧あれ、スイッチオン!

たちまち上る黒煙のような汚れ、もくもく、もくもくと、メッシュの中から吹きあがります。5分もかけたら、透明だった新品の溶液もご覧の通り。

ここまで派手にやってくれれば、洗った甲斐があるというものです。
このあと、ぬるま湯ですすぎ洗いをして乾燥させます。

プラ風防もコンパウンドで磨きました。
機械の方は部品を洗って組立て。

貴石を一つも使っていないフルメタルムーブです。潔さが痛快です。
裏返して文字板側、日車は置くだけ。

文字板をのせて、爪を曲げてセット。

チョコレート色の生地仕上げがビターな味わいです。
インデックスは、おそらく球に絞る型と一緒に突き出して、立ち上がりまで塗料が乗っているところを見ますと、塗装のあとにVカット、露出した金属部にメッキをしたのではないかと思います。幅広いV字でクロスに挽いたカットも効果的、何とも高そうに輝きます。

手間は低く、効果は高く、見せる技に拍手です。
針もそうです。

ハカマがありません。厚手の材料が面型で成型されているだけです。秒針に至っては穴が開いているだけ。これじゃあグラグラして安定しないだろうと、心配するも、受ける秒カナの方がうまい具合の円錐形になっていて、ちょうどいいところでグサリと止まる寸法になっている。どこまでも低コストに徹しています。
針を時計につけてケースに収めました。

洗ったメッシュバンドのゆがみを直し、新しいバネ棒で取り付けましたら、ピシっと固定できました。

本日の控え
TIMEX AUTOMATIC DATE cal.M32 1970年代中後期(推定) の品でした。今回は“安物”という言葉では簡単に片づけられない、常識をも覆す設計の工夫を見せつけられました。生産方法の改善で、既存の物を安く作ることができたというのではなく、設計そのものから、どうすれば部品を少なくできるか?とか、簡単に組み立てられるか?といった根本からの取り組みを見ることができて、時計を安く作ることの苦労が感じ取れました。
この時計、結構気に入って時々使っています。ところがこれ、バンドが難点でして、純正中留めは嬉しいのですが…

長手の先を手首側にくぐらせるフリーアジャストタイプで、やりにくいったらありゃしない。

とても片手じゃできません。最初に大きめの輪っかを作って手首をくぐらせ、そこから絞ってゆく方法にたどり着くまで、少々時間がかかりました。
1970年代の、どことなくスペーシーな味わいは、アポロ計画月面着陸の余韻か、米ソ冷戦下の宇宙開発競争といった社会背景によるものか?どっちにしてもプチカッコイイ。

時計をより安く、大量生産するという行いは、時計の価値を下げるという見方もありますが、時計の買えない人を一人でも減らす、即ち時計を多くの人に使ってもらうという、平和的願いもあるのではないかと、しみじみ思うのであります。
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テーマ:趣味と日記 - ジャンル:趣味・実用
- 2019/01/23(水) 10:39:46|
- 時計
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| コメント:2
いつも楽しく拝読してます。
面白い構造ですね!
そしてメッシュバンドの汚れっぷりは、この廃液からよもやヘドラが誕生するのでは?と思うくらいです(笑)
- 2019/01/23(水) 12:41:25 |
- URL |
- キムラ #-
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お世話になります。
古いメッシュは本当に洗い甲斐があります。
真っ黒い毒ガスがもくもくと沸き上がり、校庭の子どもたちはバタバタ倒れ、工事現場の作業員は白骨になります。(笑)
それはさておき、恐ろしく徹底した低価格設計で、当時の国産メーカーも対策に苦労したそうです。
セイコーTOMONYやQ&Qなんかがそうではないか?と思っています。
- 2019/01/23(水) 21:19:56 |
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- 柊horii #-
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