自作時計の愉悦
Time Ring 『自作時計の愉悦』今回は究極的な時の景色とでも申しましょうか、シンプル極まりない二点です。

まずはこれ、時字もなにもございません。針のみが宙に浮いている無の景色。何もないだけにいろんな形が浮かんでは消える、持ち主のイマジネーションが左右するデザインです。ただしかし、お気づきだろうか?微細な挽き目がレインボーを放ち、一本一本が活きているという事を。そしてこの深い青に赤みの濃淡がついていることを。

普通、メーカー品の青文字板といえば、目付の後にニッケル等でメッキを施し、青みのクリアー塗装で表現されますから、目付の凹凸は多くの場合塗膜の下で輝くことになり、表面は塗膜のつやが覆います。ですが、この時計の場合、鉄材に挽き目を入れて熱処理、いわゆる青焼きで発色させているので、温度変化によるグラデーションと、繊細な挽き目がダイレクトに露出した、極めて珍しい青文字板に仕上がっているのです。外周の藍色が中心に向かって紫に変わる淡いボカシ、かすかなムラ、これが熱と鉱物によって描かれる自然の色。
同様な技法で作られたもう一品がこれ。

なんともスペーシーなルックス。深い青の世界に大小の円のみが静かに配置されています。宇宙空間に存在する様々な時間軸の軌跡のみが描かれた、空間分割の美しさです。テンプ上の唐草彫りにだけ有機的な装飾を残すところが強烈なアクセントになっています。で、これが時針になっており、12時の青い円が分針。つまり上の写真でいうと4時58分を示しているわけです。まったく無駄が無くて清らかなデザインです。

時計の針を針っぽく見せない発想が素晴らしいですね。針というのは計器として目的を示す体裁であって、そもそも宇宙空間に針なんというものは無いのですから。直線を極力控え、円弧のみで構成された世界観は、太極拳のゆったりした動きを連想させます。
ここまで三回にわたって紹介しました時計を並べてみると、面白い構図が浮かび上がります。本作が抽象表現による宇宙とすれば「天」。具象画によって切り取られたカワセミの佇む森の情景は「地」、そして彫金で描いた古典的模様は歴史と技巧という事で「人」、宇宙を構成する三要素「天地人」がそろいます。作者が意図したものかどうかは判じかねますが、私にはそう見える。時計というものを要素分解し、濃厚な形で表現した若き才能の将来がたのしみです。
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テーマ:趣味と日記 - ジャンル:趣味・実用
- 2019/04/10(水) 10:58:53|
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