The Congress Watch 2
懐中時計の機械です。

さて解体しようかと、テンプに手を出しましたら、おや?これはシリンダー脱進ではありませんか。古いタイプの脱進方式です。
こういうやつ↓

普段多くみられるのは、貴石アンクルという部品がテンプとセットになって運動速度を制御する“ジュエリー脱進”という仕組みですが、今回のは、テンプの軸にコの字に切り欠いた筒がついていて、鍵状の歯車を送っては止め、送っては止めを繰り返す方式です。
そっとテンプを外してみる。出た、これがシリンダー脱進用のガンギ車です。

で、古くて固まっていたおかげでテンプを外せましたけど、この時点でゼンマイをほどいていないので、本当だったら猛回転でゼンマイがほどけて危ないんです。案の定、しばらくして、ズルズルズル…ジョワーンっとゼンマイがほどけ始めました。
ほどけ切って落ち着いたところで、一枚受けを開ける。

実にシンプルな時計輪列です。でも、香箱(動力ゼンマイ)のストッパーがここにもありません。
バラしてみた。

やっぱり無いですねえ、という事は文字板側か?
裏返してみる。

ありましたよ。なぜ、前回気づかなかったのだろうか?“コハゼは時計側”という固定観念に囚われていた自分が悪いんだが、つまりこの機械は、文字板を外してからゼンマイをほどく手順の設計なんですね。だとすると時計側でゼンマイがほどける今の姿にくらべ、かなり工数を要して不便である。ということは、それ以前の古い形式か、そうでなければ変わり者設計ということですね。
まあこういうものもあるんだなあ?と一人納得して、部品を洗って組み直し。

ところが、アンクルが無いからゼンマイは常にほどけている状態です。
動くかどうかはテンプをつけて初めて分かる。

ダメですね、動きません。よくよく見たら、シリンダーの開口位置が悪いらしく、ヒゲ持ちの差し込みを深くしたりしてみたら、何とか少し動きました。元々実用には向かないので、観賞用として楽しみましょう。
文字板と針をつけました。

やっぱりヨーロッパの人が書いたローマ数字は美しいですねえ。線の強弱、縦横比、レール切分との間の取り方など、どれも見ていてうっとりです。
側を掃除しましょう。
蓋の内側には犬の刻印。

TAVANESS〈タバン〉のワンコに似てますが、少し調べてみたら、ここにたどり着きました ↓
http://www.mikrolisk.de/show.php?site=280#sucheMarker このサイトに飛んだら、ならんだアルファベットから文字を選んで下の黒い欄に“hund”〈犬〉と入れてみますと、犬系の登録商標が出てきます。そして頭文字“T”のところにこいつを見つけました。

記載によりますと、登録は1884年、申請元は“Schwob Frères & Cie.”というメーカーなんだそうだけど、ま、それ以上はわかりません。ただ、そのメーカーは1892年に消滅されているようなので、1890年前後の時代ものかな?と推測するのみです。
参考:
Armand Schwob&Frère 最後、きれいとは言えませんが、掃除した外装です。

機械を組み込みました。

良い味わいです。蓋に映り込む機械もまた嬉しい。

勢いはないけれど、カシャカシャとした中にチンチンと微かに響く金属音がシリンダ脱進の声。目を閉じて100年の音を愉しむ。
本日の控え
The Congress Watch フルハンター15型 シリンダー脱進 1890年ぐらい(推定) でした。

しかし!このあと欲を出して、さらにヒゲ調整を試みようとテンプを外そうとしたら、うっかり!文字板を開けないとゼンマイをほどけないことを忘れており、緩めた刹那、鍵状ガンギの猛回転にヒゲを取られ、修復不能となりました。
もうイヤ!時間を巻き戻して!
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- 2021/05/05(水) 10:42:07|
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