切り絵新作『群鶏図』『ひとやすみ』 若い頃、美術の上で大変お世話になった恩人であります、
岸本和雄さんの新作切り絵を二点、拝見いたしました。
まずは、伊藤若冲『群鶏図』を画題にした作品で、タイトルもそのまま
群鶏図-伊藤若冲- です。
群れる鶏たちを、圧倒的な繊細さで切り出した大作です。伊藤若冲の華やかな彩色画から色を抜くという無謀で挑戦的な行為でありながら、切り絵という手法に変換することによって、見事に作品として成立しています。しかし、半端な技能で挑んだならば、それは一笑に付されるだけでありましょうが、ご覧いただきたい、全体の構図もさることながら、この多彩な表現技巧を。

迷いなく一気に切り取られた草の艶、鶏の爪先に至る流麗な曲線、鱗の重なり、脚の毛羽立ちの細かいぎざぎざ、まさに変幻自在の刃物裁き。しかもそれらは分断されることなく、必ずどこかと連結していて、一枚のシートに繋がっているという超絶設計。
参考までに元の絵はこうです。

有名な彩色画ですが、切り絵の場合、これをまず黒ベタ一色に脳内変換することから作品づくりが始まり、この時点で作品の良し悪しが決まると言っても過言ではないと、作者はおっしゃってました。なるほどそれは頷けます、単なる白黒コピーでは、原作の見どころを下げるだけに終わってしまいますが、優れた変換能力と絵心によるセンス、精緻な技巧が伴ってこそ、美術品に仕上がるのだと思います。
色とりどりな尾羽も、ボカシも薄墨も使えない黒ベタ一色に限られた条件で、この出来栄えです。

切り方によって、濃淡や立体感が生まれます。
鶏の表情も豊かです。


近くで見ては失礼かとも思いますが、近くで見ても無駄のない線の一本一本に感嘆しきりです。
以上『群鶏図-伊藤若冲-』は、令和二年一月の作品です。
つづいて二作目は静物。古民家の片隅を切り取った日本のふるさと的な情景
ひとやすみ-竹垣と草鞋〈わらじ〉-
見事な質感と立体感、水木しげるの細密ペン画を想起させる作品ですが、ここに墨は一切使われておりません、刃物で切り抜かれた一枚の黒い紙なのです。
竹の丸みにガサガサした質感。

ぶら下げられた草鞋の縄目、チクチクした質感とそのうねり。

近くで見てもその美しい曲線の描く不思議な世界に目を奪われます。そして、ゆっくり距離を開けて全体像をみると、そこには藁の匂いが染み出るような、人里の景色が展開されます。
『ひとやすみ-竹垣と草鞋〈わらじ〉』は、令和二年四月の作品でした。
今回も、ますます冴える刃物の芸術を堪能いたしました。
本作品の実物は、ただいま埼玉県
所沢市役所 市民ギャラリーで展示中 です。新型肺炎感染防止対策厳守のもと、無料鑑賞が可能です。期間は5月19日(水)までとなります。
なお、当ブログ記事は、作者ご本人の許諾の下、掲載させていただいております。
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- 2021/05/16(日) 09:38:55|
- 視聴鑑賞
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